いいじまのひと

【いいじまの人】夫婦でつくる自家製パン 地域とつながるものづくり

2025.02.13
安田稔さん、亜紀 さん

移住のきっかけは人それぞれ。偶然出会った場所が移住先となる場合もあります。今回お話を伺ったのは、飯島町でパンとジャムの工房『ファームyasu』を営む安田稔(みのる)さんと亜紀(あき)さんご夫妻です。もともと移住を計画していたわけではなかったというお二人。どのような経緯で飯島町へ移住をしたのかお話を伺いました。

決め手は景色の美しさ 田舎暮らしを選んだ理由

飯島町田切地区でパン工房を営む安田さんご夫妻。滋賀県出身の稔さん、東京都出身の亜紀さん、そして愛犬マコちゃんと暮らしています。25年前に飯島町へ移住をしたお二人。どのようなきっかけがあったのでしょうか。

「石川県で学生時代を過ごしたあと、東京のハウスメーカーへ就職しました。妻とは職場結婚でした。結婚して2年ほどに夫婦でドイツへ転勤。現地の駐在事務所では、ヨーロッパの住宅事情や建築関係の情報を日本の会社に届ける業務や輸入の窓口をしていました。帰国後は埼玉県に家を建て、都内の住宅会社で働いていたのですが、駒ヶ根市へ転勤したのをきっかけに、飯島町と出会いました」(稔さん)

「駒ヶ根市にある夫の勤務先から、近場で昼食を食べに帰れるところを探していたんです。たまたま通りかかった場所が今の住まいがある場所でした。飯島町の山や景色の美しさを見て気に入ってしまい、すぐに不動産屋さんを探して問い合わせました。そして、飯島町の自然に囲まれた雰囲気に合うような家を自分たちで設計して建てよう!となり、最初はセカンドハウスのつもりでしたが、いろいろなタイミングでここに移住することになったのです」(亜紀さん)

「当時私は東京の会社に勤務中で埼玉にも自宅があったので、1年くらい長野から東京へ通う生活をしていましたが、ちょうどその頃、時代の流れもあって退職することになり、こちらで設計事務所を立ち上げました。移住後には『キッチンガーデンたぎり』の設計の仕事もあり、だんだんとここでの生活に慣れてきた頃、2008年に妻がパンとジャムの工房を始めることになりました」(稔さん)

ものづくりのスキルを活かして 『ファームyasu』開業 

国内外の転勤を経て移住をした飯島町。偶然立ち寄った場所が現在の住まいとなった安田さんご夫妻。続いて、パン屋を開業することになった背景を伺いました。

「移住後に”果樹園ヘルパー”というチラシを見つけて、すぐに登録をしてみたんです。果樹園のお手伝いをしている時に、家の隣でブルーベリー畑をやってみては?と提案してくれた方がいて、その方が畑を耕して苗を植えてくれました。

それからブルーベリーがたくさん採れたので、ジャムを作ろう!という話になり、ジャムの加工をするならパンも焼きたい!と、ジャムの瓶詰めやパンの製造をまとめてできるように、自宅の横に加工場を作ることにしたんです」(亜紀さん)

「最初はしばらく自宅のオーブンで自分たち用にパンを焼いていましたが、そのうち近所の方におすそ分けをするようになりました。そして、口コミやおすそ分けを通して皆さんに食べてもらうのが楽しくなったようで本格的に工房を始めることになったのです」(稔さん)

「基礎や水道、電気関係以外は夫が工房を制作。そのあとはパンを少しずつ道の駅に出すようになりました。パンの種類や量も増えたので、大きなオーブンやミキサーが必要になり加工場を増築をしたんです。

そうしたらコロナ禍になり、道の駅が一週間お休みになり売り上げは厳しくなりました。また、道の駅のオープン時間に合わせて、深夜2時に起きてパンの製造を続けていましたが、夜中に起床する生活が体に負担をかけ始めていたことがきっかけとなり、自宅にお店を作ることにしました。

パン作りの原点はドイツでの生活にあります。私がフランクフルトの語学学校に通っていたときに、生徒仲間とパンを作る機会があって、ピザやクロワッサンを作りながら世間話をしたときがとても楽しくて!そこで教わったイギリスパンは、改良を重ねながら今も作っています。

もともと田舎へ移住して、パン屋をやるとは思ってもいませんでした。流れに身を任せて”いいじゃんやってみようよ!”というのが私たちのスタイルなんです」(亜紀さん)

「お店を始める際には、専門の方や地域の方にサポートしてもらいました。お金や専用機器のことでアドバイスをもらったり、工房の増築作業を手伝ってもらったり、あとはうちの看板メニューである”カンパーニュ”のレシピを提供してくれたりと、いろいろな相談に乗ってくれた方々がいたのでありがたいなと思っています」(稔さん)

次のステップへ 夫婦だからできること

流れるままに飯島町へ。設計士としてのスキルやドイツで学んだパン作りが現在のお仕事につながったという安田夫妻ですが、次に移住して思ったこと、夫婦でお店をやっていて感じたこと、これからのことについて伺いました。

「田切で暮らすようになって驚いたことは、自治会や地区の行事です。草刈りや道普請※(みちぶしん)のときに近所の方々が集まってじょれんを持って作業をする、あれが一番カルチャーショックだったかな(笑)。自分たちで身の回りの環境に気を配れることもありますが、都会暮らしの方にとってはびっくりかもしれません。

ここで暮らして良かったことは、温かい人が多いことです。私たちが住む地域は、半分ぐらいが移住者の方なのでお互いに自然と受け入れ合うことができていると思います。あとは犬を飼えたことです。のんびりと散歩ができる環境が気に入っています」(稔さん)

「実は、今年度で設計事務所をたたんでパン屋とブルーベリー畑に専念していこうと考えています。今は妻が製造を担当していて、私は配達や農作業の担当です。パンに使用する素材は自分たちで作ろうというスタンスなので、畑でブルーベリーやとうもろこし、そしてニンニクの栽培をしています。

また、一日に出すパンのバリエーションや量を日常的に夫婦で話しているので、会議をあえて持つ必要がありません。妻が新しいパンを作ったときは、試食会をして意見を出し合うことができる。普段の会話が仕事につながるのは夫婦だからこその良かったところだなと思います」(稔さん)

「夫は相談に乗ってくれる頼もしい存在。日常的に夫婦の会話が増えるので、二人で一緒にパンを作っているという感覚です。道具が壊れたときにはすぐに直してくれるし、ものづくりが得意な夫がいるのでとても助かっています。この先はお店を大きくするというよりも、細く長く続けていきたいです。作ってみたいパンはありますが、量を増やすというよりは中身を充実させたいと考えています。

『ファームyasu』ならではのパンや、お客さんに満足してもらえるようなものを元気に暮らしながら作っていきたいです。今は早朝に起きることも減り、お店が落ち着く時間には庭いじりを楽しんでいます。もしも都会にいたら、このような時間はなかなか作れないと思うんです。20年以上ここで暮らせているということが、良かったなと思います」(亜紀さん)

”いい意味で何もない” 田舎暮らしのススメ

最後に、安田さんご夫妻に飯島町の気に入っているところと、飯島町で何かを始めてみたいと考えている方に向けてメッセージをいただきました。

お気に入りの場所は自宅です。家の周りには田んぼやそば、小麦や大豆の畑が広がっていて、景色がとても良いと思います。また、南アルプスと中央アルプスに雪が降り積もった様子は本当にきれいです。まるでリゾート地にいるみたいな自慢の場所です。あとは千人塚公園の水上花火はおすすめ。飯島町ならではの素敵なイベントだと思います」(稔さん)

「信州といえば果物と思っていましたが、それ以上に食べ物が豊富で食いしん坊の私たちにとってはとても嬉しいことでした。飯島町は果樹に関しては豊かな土地柄なので、りんごや梨やぶどうがたくさん。りんごのイメージが強かった私にとっては、野菜や果物がすごく美味しくて驚きました。景色も美しいですし、暮らすにはとても良い環境だと思っています。

飯島町で何かを始めたいと考えている方は、ストーリーをしっかり持つと良いかもしれません。私たちのように流れに任せて、ひとつの目標を持つのも良いと思います。パターンは人それぞれなので、数年後のビジョンを見据えながら考えてみてはいかがでしょうか。ここはいい意味で何もないので、創作を志す方にもおすすめです」(亜紀さん)

「生活をするには必ず収入が必要になります。会社員として働き口を探すのが難しいとなれば、自分たちで何かを始めることになると思うんです。私たちのパン屋は山の上にありますが、わざわざ買いに来てくれるお客さんがいます。そういう方にこれからも来てもらえるように続けていきたいです。飯島町という環境を理解しつつ、人との付き合い方や自分たちの目指すものをはっきりとさせることが大事かなと思います」(稔さん)


取材後記:私は安田さんご夫妻と同じ地区在住ですが、今回素敵なご縁をいただきお話を伺うことができました。普段お聞きできないような貴重なお話ばかりでした。また取材を通じて、優しくてポジティブなお二人の人柄に改めてふれることができました。

『ファームyasu』さんのパンは、焼きたての美味しさを味わえて種類も豊富です。お店の看板メニューである”カンパーニュ”は食べ応え抜群でお食事の主役にもなる一品。自家製の季節の素材が使われたパンやフルーツジャムもおすすめです!絵本の世界にありそうな森の中のパン屋さん、ぜひお出かけください。

※道普請・・・道の修繕作業

photo by IIJIMA NOTEフォトアンバサダーくぼたりかさん
くぼたりかさんのInstagram


ファームyasu
所在地:長野県上伊那郡飯島町田切112番地129
TEL:0265-86-8955
Instagram:ファームyasu|南信州のパン工房
IIJIMA NOTE情報ページ:ファームyasu 飯島町観光情報

この記事を書いたライター
ライター

気賀澤絵美

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