いいじまのひと

【いいじまの人】梨農家としての新たな挑戦!子育て世代の農業ライフ

2024.12.23
BEAR’sPEAR 伊藤沙季 さん

アルプスの山々に囲まれた自然豊かな飯島町。農業に適した土地が魅力のひとつでもあり、近年では若い世代の農家さんを多く見かけるようになりました。なかには移住をして、新しく農業を始めた方もいます。今回は飯島町へ移住後、梨農家を営んでいる『BEAR’s PEAR(ベアーズペアー)』伊藤沙季(いとうさき)さんにお話を伺いました。

20代の決断!移住、そして保育士から梨農家への転身

伊藤さんは夫の大貴(だいき)さん、生後11ヶ月(取材時)の杜有(とあ)ちゃんの3人家族。現在、飯島町七久保地区で夫婦で梨農家を営んでいます。もともとは出身地の愛知県で別の職業に就いていたという伊藤さん。飯島町へ移住をしたのは、なんと20代半ばとのこと。その後、飯島町の地域おこし協力隊を経て、2022年に梨農家として新規就農されました。20代で移住という大きな決断に至るまでにどのような経緯があったのでしょうか。

「飯島町に移住をしたのは2021年です。幼い頃から両親と長野県へりんごを買いに出かけたり、ブルーベリー狩りをしたり、祖父母の出身地である三重県へ行き、山で柑橘系の収穫を手伝ったりして、作物にふれる機会が多くありました。そうした幼少期を過ごす中で、”いつか農業をやってみたい”という思いが芽生えたのが農家への第一歩でした。移住前、愛知にいた頃に夫と出会ったのですが、当時、飲食店勤務だった夫と保育士だった私は、生活リズムが異なることもあり働き方を変えたいなと、二人で移住を考え始めました」

「夫婦で農家になろうと思ったきっかけは、私も夫も幼少期から家庭菜園や農作業に興味を持っていたことです。移住をする前は持ち家もなく、子どももいなかったので、失うものがないうちに挑戦してみようと二人で農家への転身を決めました。二人とも梨が大好きで、育てるなら二人の好きなものが良いと考えていましたが、そのときはなんの知識もない状態。そんな中、果樹栽培の育て方を教えてもらえる場所を探していたとき出会ったのが飯島町だったのです。

移住前に飯島町が主催している果樹農家さんの見学ツアーに参加したのですが、その研修先で出会った農家さん(『桃沢晴香園』の馬目葉二(まのめようじ)さん)がとても素敵な方で。”この方に教えてもらいたい!”と思い、移住を決めました。

なので、飯島町に移住を決めた最大の理由は、馬目さんに出会ったことです。あとは、当時暮らしていたところよりも涼しくて、実家に帰省するのにちょうど良い距離だったからという理由もあります。仕事を変えることに心配や不安はあまりありませんでしたが、そう思えた理由の一つは本気になればいつでも帰れるという心の余裕があったからだと思います」

大切にしたい地域の人とのつながりとご縁

移住や転職に不安は感じなかったという伊藤さん。人の温かさが大きな支えになったといいます。では、移住後の暮らしや梨農家としての仕事はどのように感じたのでしょうか。

「田舎暮らしが初めてだったので、移住をしてから消防団や自治会といった地域の行事を知って驚きました。保育士から農家になったことよりも、住むところによって異なる常識のギャップの方が大きく衝撃的でした。ですが、周りの方には本当にお世話になっていて、大切にしたい繋がりもたくさんあるので、行事があるときは積極的に参加をしています。私たちが梨を育てている果樹園は、地域の方が紹介してくださいました。今の生活があるのは、地域の方々のおかげだと思っています」

「果樹農家になってから驚いたことは、スーパーで売っている果物を見て、”農家さんによって手のかけ方が全然違う”、”育てる人と環境でこんなに変わるんだ”と気がついたときです。

飯島町で農家をされている方の中には一般市場では”上質”なものをお得な価格で販売されている方もいて、こんなに上質なのにこの値段でいいの?と驚くこともよくあります。その点、私たち夫婦は移住者目線や非農家の目線になることもできるので、そういった経験は仕事に活かせていると思います。

ちなみに『BEAR’s PEAR』という名前は、北海道出身の夫がクマ好きという理由からつけました。また、自然と人が良い関係を築いていけたら良いなという思いから環境にやさしい素材を商品パッケージに用いたり、環境整備による農薬の適切な利用を心掛けたりしています」

仕事も子育ても家族みんなで!

本格的に梨栽培が始まり、農家として歩みを進めると同時に、子育て真っ最中の伊藤さん。子育てをしながら仕事をすること、梨農家ならではの悩みごとについて伺いました。

「娘がまだ小さいので、今は主に私が事務仕事を、夫が農作業をしています。繁忙期は母に来ていただき面倒を見てもらうこともあります。出産のための里帰りが収穫の季節の後だったので良かったのですが、果樹は年によって栽培量を変えられないので、育休や産休も取りにくく、周りの方の協力が欠かせません。今は家族に支えてもらいながら、仕事と子育てのバランスを保っています」

「夫婦で一緒に仕事をしていると、オンとオフのメリハリをつけにくいということは悩みのひとつです。たとえば休みの日でも、結局仕事をしていることもよくあります。逆に、急に明日やろう!と対応ができたり、時間の融通が効くのも家族でしているからだと思います。

あとはこの仕事は予定を立てる時に少し苦労するんです。交配という重要な工程があるのですが、梨の花が咲くタイミングが分からなかったり、天気や気温で大きく左右されたり。梨が育っている間は暑さで日焼けしないように気を配ることも必要です。そういったタイミングや気配りが梨の形や収穫量に影響するので、どの農家さんも苦労されています。その中でも工夫で乗り越えているかっこいい農家さんもいらっしゃるので、私たちも天候に応じて対策や工夫ができる農家になりたいと思っています」

心も体も満たされる商品を 5つの”好きなこと”

常に自然と向き合いながら、梨も生き物と同じように思いやりや配慮を持って育てている伊藤さん。次に伊藤さんが思い描く理想の暮らしや今後の目標について教えていただきました。

「私の好きなことの中に次の5つがあります。

まずは【何かを作ること】です。
まだ夢の段階ですが、青果だけでなくジュースやドライフルーツ等の加工品にも力を入れたいと思っています。袋に詰めている時からワクワクするようなかわいいパッケージに、心も体も満たされるような美味しいものを詰めた商品ができたらなと思っています。

次に【お出かけすること】と【すぐ疲れるけどちょっと忙しいこと】
マルシェやカフェのようなことにも挑戦し、いろいろな所へ販売へ出かけたいと思っています。いずれ行列ができるくらい人気になりたいです。

そして【風を感じること】
『アグリネイチャーいいじま』付近にあるブランコが好きで、以前はよく行っていたんです。子どもが好きなことって大人も本当は好きな人がたくさんいると思うんです。滑り台やブランコ、キックボードに乗って風を感じられるような、そんな場所が近くにできたらいいなと思ってます。

最後に【家族や友人と過ごすこと】です。
私のお気に入りの場所は古民家の自宅。陽気の良い季節だと窓を開けてお昼寝したり、星もきれいに見えたり、近くに小さい用水路が流れていたり、小さな町のよう。いつかは庭に木を植えて、風の通る森のようなお庭にしたいです。果樹園も木漏れ日がきれいな素敵な空間なので、いろいろな人に来てもらい楽しんでもらえたらと思っています。

これらの夢や好きなことのために、今は経済的にも時間的にも余裕が持てるように、基本を大切に作業効率を上げたり、異常気象にも対応した栽培方法を検討したり、販売方法を工夫したりして美味しい梨を作って経営を安定させることが目標です。これからも大切な人たちに安心して美味しく食べてもらえるような梨づくりを心がけていきます」

最後に飯島町へ移住をしてみたい、農業をやってみたいという方へ向けてメッセージをお願いします。

現地へ一度行って自分の目で確かめてみてください。地域の雰囲気やそこで暮らす方々に直接ふれあうことで、自分のライフスタイルに合う場所が見つかるかもしれません。

“移住した人生”と”移住しなかった人生”は比べることができないので、故郷に帰れる余裕を残して移住すると安心かもしれません。嫌なことがあっても心の余裕があるともう少しだけ考えてから行動しよう!とも思えます。心に余裕を持って生活ができるというのは、とても大事なことかなと思います」

取材後記
お話を伺って、伊藤さんの梨や自然に対する思いやりや熱意を感じることができました。また、飯島町の人の温かさが移住や梨農家になるきっかけとなったというお話も印象的でした。伊藤さんご夫妻が大切に育てている梨を見かけたら、ぜひお手にとってみてください。とても甘く、みずみずしい味わいでおすすめです!これからも『BEAR’s PEAR』さんのつくる梨や果物の加工品を楽しみにしています。

photo by IIJIMA NOTEフォトアンバサダーくぼたりかさん
Instagram:くぼたりかさん


BEAR’s PEAR(ベアーズペアー)
WEBサイト: BEAR’s PEAR
Instagram: BEAR’s PEAR(梨農家のベアーズペアー)

IIJIMA NOTE関連記事:
伊藤沙季さん【美味しい果物栽培を学ぶ①】〜5月の草刈り〜
【美味しい果物栽培を学ぶ⑰】まで連載中です
【いいじまの7月】Photo Diary/くぼたりかさん編
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この記事を書いたライター
ライター

気賀澤絵美

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