いいじまのひと

【子ども食堂 アムール】「おかえり」子どもたちの第三の居場所へ

2024.05.24
中原望美 さん

皆さんは「子ども食堂」をご存知ですか?その言葉は聞いたことがあるけれど、どのようなことをしているのだろう?という方もいらっしゃるのではないでしょうか。じつは私もその一人です。

飯島町で活動されている『子ども食堂 アムール』さん。私の友人のエピソードなのですが、"自分が体調不良で家族の食事を作れなかった時に、知人が届けてくれたアムールのシチューがとても美味しかった"そうです。ほっこりしたのと同時に、いったいどのようなところなんだろう?と気になっていました。

お話を伺ったのは『子ども食堂 アムール』の代表、中原望美(なかはらのぞみ)さんです。飯島町で子ども食堂を立ち上げることになったきっかけや、実際にどのような活動をされているのかを伺いました。

子ども食堂立ち上げ 背中を押した長年の想い

飯島町出身の中原さんは、現在高校3年生になる息子さんを育てながら飯島町内の飲食店で働いています。『子ども食堂 アムール』の活動は令和3年から始まったとのこと。立ち上げるきっかけとなったのは、中原さんご自身の子育ての経験からだそうです。

「子ども食堂を立ち上げたいと思ったのは、息子が小学3年生のころからでした。町外で暮らしていたときに息子に発達障害が見つかり、子育ての環境を変えようと私の生まれ故郷の飯島町(七久保)に戻ってきました。

当時はほぼ毎日のように遅い時間まで小学校の学童クラブにお世話になっていました。"遅いね"とかマイナスな言葉はいっさい言わなかったそうで、地域のなかで育った息子は本当にのびのびとしているのを感じたんですね。地域の人ってとてもあたたかいなぁと思ったのと同時に、一人で子育てすることの難しさを感じました。

やがて息子が中学生になり手が離れてきたときに、私にも何かできないかなと考えました。お母さんが穏やかな気持ちで子育てができれば、子どもにも伝わるのではないかと思ったのです。地域の方と一緒に、少しでも誰かの手助けになれたらと“子ども食堂”を始めました」

「もうひとつきっかけがあって、それは 『のどか賞』(※)に入選したことでした。たまたま飯島町の広報紙でのどか賞の記事を読んで"これだ!"と思って。そうしたら役場や社会福祉協議会の方の耳に入り、相談に乗ってくださったり、立ち上げへの背中を押してもらいました。あと、のどか賞で発表をしたときに聞いてくださった方から連絡をいただいたり、そのときのご縁で立ち上げメンバーが増えていきました。今は立ち上げたときのメンバーがほとんど残ってくださっています。

当時の飯島町には子ども食堂が存在しなかったので、誰かの居場所を作りたいけどどうすればいいのかわからず、手探り状態でした。子ども食堂と聞くともしかしたら"貧困"という文字をイメージする方もいるかもしれません。私たちはそうは考えていなくて、どなたでも来られる多世代交流の場になったらいいなと思っています。今は小さいお子さんを連れたお母さんたちやお年寄りの方も来てくださっているので、いずれ子ども食堂が情報交換の場所になったら嬉しいです」

※のどか賞・・飯島町内にある「のどかクリニック」の院長先生が主催。"飯島町を発展させる企画・アイデアの背中を、ほんの少し押したい"という思いから始まったもの。町の発展に役立つ具体的な企画・企業・活動を募って、プレゼンの場を設け、賞金を授けてくださる。

引用先/IIJIMA NOTE【伊那谷】暮らしの覚え書き#3〜のどか賞、応援してくれるあたたかい心〜より

苦難や葛藤の先に見えたもの

まわりの人の支えを力に立ち上げた子ども食堂。しかし、コロナ禍と重なったことで活動にも影響が及んだそう。思うように進まない時期や、ご自身との葛藤もあったという中原さん。ですが、時代に合わせて活動も変化しているそうです。

「活動拠点として『七久保林業センター』と『成人大学センター(飯島公民館)』を使わせてもらっています。立ち上げ当初は、そこへ子どもたちを募って半日一緒に遊んでご飯を食べるということをしていましたが、コロナ禍の影響を受け、活動ができなくなってしまった時期がありました。

そんな時期、"まずは子ども食堂のことを広く知ってもらおう"と、月一回、第四土曜日に『七久保林業センター』と『成人大学センター』で交互にテイクアウトを始めました。現在も月に一回行っています。また『子育てサークル ママ⭐︎ぽけっと』さんと一緒に活動をさせてもらっていることもあり、今は小さいお子さん連れの方にお越しいただくことが多いです」

「運営メンバーはおよそ20名くらい。思いに賛同してくれる方が集まってくれています。食事のメニューは来てくださる方の意見をいただきながら、メンバーみんなで考えていています。

例えば、ひな祭りの時期はちらし寿司にしてみたり。その時の季節に合わせたメニューを考えています。今はイートインも始めました。毎月100食を目標にしているのですが、足りなくなってしまったときは申し訳なく、そのあたりはもう少しうまくできたらいいなと思います」

「立ち上げた時から思うことは、この活動を続けていいのかということ。やはり時には厳しい意見もいただき、辛い思いもたくさんしてきました。ですが、そういった言葉をいただく度に初心に戻って自分がやりたかったことや思いを見つめ直すことができます。

そうすると、やはり"子どもたちのため"だよね、と落ち着くのです。子どもたちが大きくなったときに、こういうあたたかい環境で育ったことを少しでも感じてもらって、また地元へ帰ってきてくれるといいなという気持ちを思い出します。

子ども食堂を開催したときに"ありがとう""頑張ってね"、"美味しかった"と、あたたかい言葉をかけてくださってる方たちに支えてもらって続けられています。今は、だんだんと子どもたちも集まってくれるようになって、みんなでおしゃべりしながら笑顔でご飯を食べれています。やっぱりそういう姿を見ると、やって良かった!と思いますね」

子どもたちをあたたかく迎えられる空間を目指して

良いことも悪いことも受け止めて前へ進む中原さん。何かを始めることは自分一人ではできなかったといいます。地域の方のサポートや息子さんの存在がとても大きいそうです。子ども食堂のこれからのことや活動を通して感じたことを伺いました。

「月一回のテイクアウトは続けていきたいです。地元の方に食材を分けていただくことも多く、本当にありがたく思います。野菜やりんごなどの食材をいただく度に、多くの地域の方に支えられていることを実感します。

今は子ども食堂として飯島町の田切地区に畑をお借りしています。今年で2年目ですが、2023年はやきいも大会や田植えをさせてもらいました。定期的に子どもたちも一緒に行っていて、種まきや収穫といった体験もしました。畑の管理やサポートをしてくれる地域の方のおかげで活動が続けられています。今年は地域の皆さんと一緒に収穫祭を開催したいですね」

「私は、子ども食堂の活動を通して地域の人のあたたかさをこれまで以上に感じています。優柔不断な部分がある私ですが、子ども食堂を立ち上げてから周りの方のおかげで強くなりました。今度は同じ経験をしている方がいれば、少しでも支えになりたいです。

それは子育ての経験からも言えるのですが、困ったときは役場の方が相談に乗ってくれたり、病院を紹介してくれたりしました。たくさんの地域の方のサポートがあったから私も子育てができたと思います。声をあげれば何かしらの答えが返ってくるので、たとえ形にならなくても、最初の一歩は出るのではないかと思います」

「私が一番の目標としているのは、子どもの居場所を作ることです。今は『七久保林業センター』と『成人大学センター』を使わせてもらっていますが、いずれはどこかに拠点をかまえたいという気持ちがあります。それが実現すれば、子どもたちが学校から帰ってきて、民間で "おかえり"って迎えてあげたいですね。お母さんやお家の人が迎えに来てくれるのを一緒に待っててあげたいなって思います。少しでもみんなが関わりを持ち、地域で子どもたちを育ててあげたいと考えています」

最後に飯島町へ移住を検討している方へ

「飯島町に住む人はあたたかく、子育てもしやすい環境です。山が美しいから移住しよう!という理由だけでは移住は難しいと思います。一番は四季に合わせてお越しいただいて、考えてみてください。ずっとそこにいていただきたいですからね。

そして、子ども食堂に少しでも興味を持っていただけましたら、一度私たちの活動を見にお越しください。きっと移住者の先輩や子育ての仲間たちにも出会えるのではないでしょうか。こんなところへ行ったよ、とまわりの方にも広がっていったら嬉しいです!」

美味しい料理とたくさんの笑顔があふれる憩いの場。誰でも迎え入れてくれる雰囲気は、きっとどなたでも安心できるのではないでしょうか。お話を伺うなかで特に印象的だったのは「子どもたちの居場所を作りたい」という中原さんの熱い思い。家庭でも学校でもないけれど、誰かの「ただいま」「おかえり」が聞こえてきそうな空間を『子ども食堂 アムール』さんは目指していらっしゃいます。お食事に行くのもよし、おしゃべりをするのもよし。季節ごとに楽しい行事も開催されているそうです!もしかしたら、そこに行けば新しい出会いが生まれるかもしれませんね。ぜひ一度、子ども食堂アムールさんをのぞいてみてはいかがでしょうか。

【子ども食堂 アムール】

〈開催日時〉毎月1回 第四土曜日
〈活動内容〉食事提供/悩み相談/多世代交流
〈参加費〉無料 
〈開催場所〉
・成人大学センター(飯島町飯島1189-1)
・七久保林業センター(飯島町七久保770-1)

  • ボランティアスタッフとしてご協力いただける方を募集しています。男性スタッフさん大歓迎!
  • 活動費用のご寄付も受け付けております。
  • 飯島町内の「トマト」「Aコープ飯島」「Aコープ七久保」さんにて募金箱を設置中です。
  • 金額が大きい場合は直接アムールさんへお問い合わせください。
  • 食材提供も引き続きよろしくお願いします。
この記事を書いたライター
ライター

気賀澤絵美

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