いいじまのひと

【いいじまの人①】”百鬼ゆめひな” が魅せる人形師の世界 - 移住から文化継承まで -

2024.11.27
【百鬼ゆめひな】飯田実千香 さん

人形師『百鬼(ひゃっき)ゆめひな』こと飯田美千香(いいだみちか)さん。等身大人形がまるで舞い踊っているかのような表現が特徴的な”どんどろ流”で、人々を魅了し続けています。飯島町を拠点に舞台や町内のイベント、神社仏閣での奉納演舞などで公演を行うほか、企画から人形の制作まですべて飯田さん自らが手がけています。

「子どもの頃から好きだった人形が仕事に結びつくなんて思っていませんでした。舞台のこともわからずにこの世界に入ったんです」と語る飯田さん。人形師として活動するようになったきっかけは何だったのでしょうか。今回は、飯島町にお住まいの飯田さんの活動原点から移住、そして人形師としての世界の魅力をお伺いしました。

師匠との運命的な出会い 人形師の世界へ

現在、飯島町を拠点に全国各地や海外といった幅広い地域で上演を行っている飯田さん。出身は鹿児島県とのことですが、どのような経緯で飯島町へ移住されたのでしょうか。

「今、私がやっている”どんどろスタイル”の創作者であり、師匠でもある『百鬼どんどろ』岡本芳一(おかもとほういち)さんとの出会いから始まりました。

移住をしたのは1997年。当時鹿児島で暮らしていたときに、たまたまテレビでSBC信越放送が制作した師匠の半ドキュメンタリー番組を見ていました。その番組が文化庁の賞を取って、全国で放送されたんです」

「もともと市松人形のような日本風の人形や、能面や、仏像など仏教美術が好きでした。そのころ般若心経も一生懸命覚えていて、なんとなくテレビをつけたら般若心経が聞こえてきたので、なんだろう?と見てみたら、師匠でもある岡本さんの映像とともに市松人形のような人形や能面のような面をつけた人が出てきてたのです。

それはもう美しくて不思議な映像でとても衝撃を受けました。いてもたってもいられなくて、テレビ局に問い合わせをしたんです」

「そうしたら岡本さんが飯島町の千人塚公園で公演をすると知り、すぐに飛んで来たのです。そして、岡本さんの暮らしている飯島町へ移住を決意しました。移住前は車販売店の営業職や旅行業をしていましたが、当時はちょうどバブルが弾けたころだったので、仕事に困らない時代でした。若さもあり、ためらうことなく移住をし、この世界に飛び込みました」

移住後の変化 地域とつながる人形師

会社員から人形師へ転身。師匠を追いかけるように飯島町へ移住した飯田さんですが、暮らしのなかであらゆる変化や感じたことがあったそうです。

「まず生活面で変化したことは、お勤めをしなくなったことです。収入面を置いておけば、好きなことを思いきりできる暮らしになったこと。職場ではひとつのことにこだわりたくても難しかったり、遠慮しないといけないことがあるけれど、やりたいことをやりたいだけできることに感動しました」

「そもそも「人形師」のような生業の人は地域に受け入れてもらえるのか?と不安もありました。ですが飯島町へ来てからは、町のイベントがあるときに声をかけていただいたり、少しずつ地域から受け入れてもらっていたように思います。

師匠がしていたことを継承し、お正月は門付(かどづけ)と言って獅子舞をしています。無病息災を願い、ご祝儀を獅子にかます(噛ませる)という文化がこの地域にはあるので、獅子舞を被ってここの地域を全部まわるんです。師匠がやってきた歴史もありますが、そんな風に社会との繋がりが”人形”であることが最初はすごく不思議でした」

師匠岡本さんの意志や行動を継承しながら、地域に根差して活動をしている飯田さん。地域の方にご自身の活動を知ってもらうために意識されたことはあるのでしょうか。

一番は師匠の岡本さんの存在が大きいのですが、私は役場に頻繁に通い、町との連携も行うように心がけました。新聞の記者さんがよく紹介してくださったり、公演をきっかけにPRさせてもらったりもしました。飯島町の文化サロンで公演を取り上げていただいたことも大きいですね。あとは獅子舞保存会に所属しています。少しずつ地域との関わりが増え、そこからじわじわと知っていただけるようなったのだと思います」

誰かの心の支えになりたい ”どんどろ流”を生かし続ける理由

人形師「百鬼ゆめひな」として注目される存在となった飯田さん。今後の目標や思い描く理想の暮らしはあるのでしょうか。

「今までは自分さえ頑張っていれば良いということを念頭に置いてやってきたんです。ですが以前、国立民族学博物館で開かれた伝統芸能や民俗芸能の講演会で、”文化は一人でやっても広がらない、コミュニティごと育てないと残らない”という話を聞き、衝撃を受けました。

一人で頑張ろうと意気込んでも淘汰(とうた)されるだけかもしれないと思ったときに、やりたいと思う人を作っていきたいと感じました。今まではより多くの方に見ていただきたいという気持ちでしたが、”あれ私もやってるよ!”という内側の人を増やしていきたいと今は思っています」

「今年の6月から月に一回”どんどろ寺子屋”というワークショップをしてきて、それを12月の公演で映像を発表するのを目標にしています。大人が多いですが、そのなかに小学1年生の子と中学3年生の子もいるんです。いずれは、学校で子どもたちに見てもらえるような機会が作れたらいいなと思っているところです。

飯島町は一歩を踏み出し、人形師という生業を始めた場所。この先も飯島町でやっていけたらと思っています。出身は鹿児島ですし、親族がいるわけでもないですが、ここにずっと居る理由を見つけていきたい。理由はいらないかもしれないけれど、心の支えとしてここに居る理由があったらいいなと思っています。

飯島町から全国、そして世界に発信できるような芸能を作っていきたい。私のやっていることが人に求められて、そして誰かの助けになったらいいなとも思っています

photo by IIJIMA NOTEフォトアンバサダーmiwaさん
miwaさんのInstagram


【百鬼ゆめひなさん
WEBサイト:百鬼ゆめひな
Instagram:飯田実千香【百鬼ゆめひな】

『伊那谷 化けるんです。一人劇祭』
とき:2024年12月1日(日)開演14時/開場13時30分
ところ:飯島町文化館 小ホール(長野県上伊那郡飯島町飯島2489番地)
料金:
前売・予約 3,000円(18歳以下 1,000円)
当日 3,500円(18歳以下 1,500円)
★飯島町民割 2,000円◉要事前申込み/おひとり様最大3枚まで購入可能です。
ご購入時、代表の方のみ住所確認させていただきます。

出演:
劇団ムカシ玩具 舞香「神々の謡〜知里幸恵の自ら歌った謡」
百鬼ゆめひな「木の花咲くや姫」
東しのぶ「鬼会」

《チケット取扱い》
飯島町文化館 0265-86-5877
たろう屋 0265-88-4111
風の谷・絵本館 0265-86-5546
百鬼ゆめひな 080-5541-0706

【主催】どんどろ流 百鬼ゆめひな
【共催】飯島町/飯島町教育委員会
【後援】特定非営利活動法人アクターズゼミナール伊那塾/一人劇を育てる会

公式サイトはこちら

この記事を書いたライター
ライター

気賀澤絵美

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