いいじまで働く

【堀内煙火店】技術と伝統を守り未来へつなぐ 世界に誇る飯島町の花火

2023.10.14
有限会社 伊那火工堀内煙火店
花火師
那須野大さん、那須野みゆきさん、柗井のの子 さん

             

花火といえば、夜空を鮮やかに彩る夏の風物詩のひとつ。迫力のある大きな音と美しい光は、一瞬で人々の視線を独占します。近くで見ても、遠くから見ても楽しめるのが花火のいいところ。飯島町では祭りや行事のときに花火で締めくくることが多く、イベントには欠かせないものです。また、夏以外の季節に打ち上げられることもあります。花火は、飯島町に暮らす人々にとって身近な存在なのかもしれません。

明治32年創業の『堀内煙火店(ほりうちえんかてん)』さんは、およそ124年の歴史とともに飯島町で多くの花火を作っています。代表取締役の那須野大(なすのまさる)さん、みゆきさんご夫妻と花火師の柗井(まつい)のの子さんにお話を伺いました。

まずは、作り手の方にはどんな想いがあるのでしょうか。職人の柗井のの子さんは、入社8年目の女性花火師です。職人になる前は違う業種で働いていたという柗井さん。幼い頃から花火に対する想いがあったそうです。

花火の世界に魅了されて
女性花火師 ”柗井さん” のストーリー

「小さい頃から花火の世界に魅力を感じていました。いつか美しい花火を作ってみたい!この業界で働いてみたい!と思っていました。夢を持ったまま大学へ進学し、作家活動や服のデザインに携わっていましたが、30歳を目前にしてふと思い出したのです。心の片隅に眠っていた”花火の世界に関わりたいという気持ち”を。そして動き出したときに最初に出会ったのがこの会社でした」

作家活動のかたわら、堀内煙火店でアルバイトを始めたという柗井さん。はじめは、とにかく花火の世界をみてみたいという気持ちが大きかったそうです。

「最初は、花火工場の数の多さやその会社それぞれに違う特技があることに驚きました。深いことも知らずに飛び込んだ花火の世界。聞けば聞くほど魅力があふれる世界で、もうやめられなくなりましたね。もっと花火のことを知りたいと思った頃から正社員として働いています。それまでは、月曜日から金曜日まで働くというよりも、自由に創作活動をしていましたが、そんな暮らしを忘れるくらい夢中になれる仕事です」

柗井さんにとって、花火師への転職は大きな出来事だったようです。では、どういった仕事をされているのでしょうか。

「仕事内容は季節によって異なります。夏から秋にかけてはおもに花火の打ち上げや準備。冬から春にかけては花火の製造です。製造では”星”とよばれる光の粒を作っています。星は空中で光る火薬で、花火玉の中に仕込む小さな粒のことです。仕事内容は季節によって異なります。朝から日が暮れるまで星をかけ続けたり、梅雨の時期は夏の現場の準備をしたりしています。

外の仕事ということもあり、天気をみながら仕事を変えたりもします。花火師の世界は、親方や男性が中心に仕事を動かすことが多いので、現場の雰囲気は張り詰めていることもしばしば。ですが、みんながこだわりをもって大事に仕事をしているから、きれいな流れができている。一方で作業場にいるパートさんたちは女性の方がとても多いんです。年齢層も幅広く、ピリピリとした現場の空気を柔らかくしてくれます。仕事面でも細かな気配りをしてくれる、私にとってはお母さんたちのような存在です」

厳しい現場のなかに癒しの存在。男性と女性のバランスが職場の雰囲気を保っていることがわかります。最後に、柗井さんにとって、働くなかでのやりがいを伺いました。

「私たちの仕事は、ただの作業ではありません。大きくて大事なものを作っていると考えています。それは、ひとつずつ大切な工程を経て、それぞれの職人が想いや考えを持って作り上げたものです。昔からつながっている技術を今も大切に使わせてもらっています。それはとても貴重なものでもあり、危険なものでもあり、丁寧に扱わなければならない。大きな重たい仕事と真剣に向き合う環境のなかで、ただ働いたり手を動かしたりするのではないというところにやりがいを感じます。

花火を見た人が私たちと同じように共感して、歓声や拍手をくださることがすべてにつながるのではないでしょうか。私にとって、花火に携われている現状が贅沢なことだと感じています。危険なく打ち上げをし、これからも当たり前のように花火に関わっていけることが私の夢です。充実している今の仕事に感謝し、今後も続けていきたいと思っています」

世界に通じる職人の技 ふたたび花火が身近な存在へ

次に、堀内煙火店ではどのような事業をされているのでしょうか。代表を務める那須野さんご夫妻にお話を伺いました。

コロナ禍前の2019年までは、札幌から沖縄まで全国各地で花火を打ち上げていたそうです。数えきれないほどの実績をお持ちの堀内煙火店さん。企業向けの花火を作ることもあるのだそう。イベントや大会にも多く参加をされており、賞を独占したこともあるといいます。全国からの注目にとどまらず、なんと海外からのオファーも多いのだそうです。

堀内煙火店さんの花火は私も何度も拝見し、心を奪われています。多くの関心を集める理由は、どうやら製造工程の手前からあったようです。

「まず、はじめに弊社の職人各自が花火の色・形・高さ・燃え方・飛び方などのシミュレーションを頭の中でプログラムしています。おおむねイメージを作りあげてから次の工程へ進むといった感じです。毎年出している新作花火の内容も全部考えて作っています」

プログラムはおもに各大会担当の職人がおこなっているそうです。打ち上げから開花までをすべて頭の中で想像していることにとても驚きました。さらに、最近では流行に合わせた花火も作っているのだそう。

「ワイド感を出しながら音楽とコラボレーションした壮大な花火を打ち上げており、時代にあった演出にも力を入れています。コンマ何秒で花火の色が変わる技術は、世界の中でも日本が一番ではないでしょうか」とのこと。

「花火の音や色には、ストレス発散や癒し効果があるそうです。見に来てくださった方がすっきりとした気持ちになってもらえると嬉しく思います」と花火のもたらす良さを教えてくださったみゆきさん。

職人の巧みな技術や細やかなこだわりがあるからこそ、人々を魅了する花火が上がり続けるのです。

お話を伺ってみてわかったことは、堀内煙火店のみなさんが長い歴史と伝統を守りながら、高度な技術を大切にされているということです。それぞれの職人さんが想いをつなぎ合わせて作り出される花火。その背景には、危険と隣り合わせにいる方たちが真剣に花火と向き合っているということを知りました。そして、柗井さんの想いは花火のように強く、美しく感じました。

およそ4年間のコロナ禍が落ち着き、2023年の夏は全国各地で花火大会が復活しています。堀内煙火店さんの素晴らしい作品も日本の各所や世界各国で再び見ることができそうですね。とても楽しみです。

今回の取材を通して、花火の奥深い魅力や花火師さんの想いにふれることができました。飯島町内にもまた、花火を身近に感じられる季節がやってきます。ひと味違う見かたで、その美しい姿を眺めたいと思いました。日本に、世界に誇れる飯島町の花火屋さん。これからも人々の心に残るような花火を届けてくれることでしょう。

この記事を書いたライター
ライター

気賀澤絵美

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